Anonymous〜この世界にいない君へ〜

朝日が廃墟と化した部屋を照らしていく。十畳ほどの大きさの部屋には、ボロボロに朽ち果てた家具が残されていた。穴の空いたソファ、型の古いテレビ、薄汚れたフランス人形、この部屋の時間は止まっている。

そんな部屋の中心にある柱に、アノニマスは縛り付けられていた。手は後ろに回されて手錠をかけられ、体には縄が巻き付けられている。口には布が咬まされていた。

薄暗い部屋に光が差し込んでいく。朝がやって来たのだ。光はアノニマスの姿も照らし出した。その眩しさにアノニマスの瞼が動く。

(あたしは、昨日太宰と食事をして……)

アノニマスの脳裏に昨日のことが思い出される。そして目を開けたアノニマスは、自身が拘束されていることを知っても驚くことはなかった。誘拐犯が大人を自由にさせておくはずがないと予想していたからだ。

(ここはどこだ?)

部屋の中を見てもアノニマスの知っている場所ではない。アノニマスはため息を吐こうとして、口の自由すらないことに気付いた。

(最悪だ。一体何が目的だろうか)