Anonymous〜この世界にいない君へ〜

ガシャン!

大きな音が響いた。グラスは床に落ち、粉々に割れている。アノニマスのワンピースは水でびしょ濡れになっていた。

「お、おい。大丈夫か?」

「お客様、お怪我はありませんか?」

紫月と音を聞いてやって来た店員が声をかける。しかし、アノニマスは真っ青な顔で黙り込んでいるだけだった。

店員が割れたグラスを片付け、水も拭き終わった後、凍り付いたように固まっていたアノニマスはようやく息を吐いた。しかしその手は震えており、動揺しているのがわかる。

「おい、本当に大丈夫か?」

アノニマスの隣に紫月は移動し、華奢な肩に触れる。その肩も小刻みに震えていた。アノニマスの唇が動く。

「横道康成は……あたしが翡翠の両親の殺害を計画した際、麻薬を売ってくれた人物だ」

「何!?」

今度は紫月が動揺する番だった。少し大きな声を上げてしまう。アノニマスに素早く口を塞がれ、顔に熱が集まる。アノニマスは紫月を気にすることなく、話し続けた。