Anonymous〜この世界にいない君へ〜

(あの時と同じ殺意……!)

アノニマスは辺りを見回す。しかし、こちらに敵意の目を向けている者は誰もいない。彼女は大きく息を吐いた。その場に崩れ落ちそうになるのをなんとか堪える。

「翡翠、必ず守るからな」

そう呟き、アノニマスは持っているバッグの中からスマホを取り出す。今日は電車ではなくタクシーで帰ろうと思ったのだ。スマホの電源を入れると紫月からメッセージが来ていることに気付いた。

「太宰」

会いたいと思った。紫月に『夜になら話を聞ける』とだけ返す。そして、アノニマスは深く息を吐いた。



その夜、紫月はアノニマスと共に個室のあるレストランにいた。少し小洒落たイタリアンだ。

「こんな店、初めて来た」

クリーム色のブラウスに赤いワンピースを着たアノニマスは落ち着いた雰囲気の内装を見つめ、呟くように言う。ドキッと胸が高鳴るのを感じながら、紫月はメニューで顔を隠し、口を開く。

「初めてなのか?売れっ子先生ならこういうところには頻繁に打ち合わせなんかで来るんだと思ったが」