Anonymous〜この世界にいない君へ〜

編集者に驚いた様子で話しかけられ、アノニマスは頰を押さえる。普段より体温を高く感じ、アノニマスは「すみません。お手洗いに行ってきます」と立ち上がった。

トイレに入り、備え付けてある鏡を見る。顔は真っ赤に染まっていた。アノニマスは両手で頰に触れる。

「熱……」

何故、これほど顔が赤くなるのか。アノニマスの頭に紫月が浮かぶ。心拍数が早まったような気がした。アノニマスは驚く。初めての感情だった。

(……何なんだ、これは!)

頭を横に振り、深呼吸を繰り返す。紫月の顔がようやく脳裏から消えた。アノニマスはホッとし、打ち合わせに戻ろうとトイレを出る。その時だった。

「ッ!」

アノニマスの体を突然寒気が襲う。手足が震え、息ができなくなっていく。思わずその場に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。

(何だ?誰かに見られている?)

この視線をアノニマスはよく知っている。殺意の込められたものだ。翡翠が実の両親によく向けられていたため、アノニマスも自然と覚えたのだ。

(翡翠は、何者かに狙われている?)

アノニマスは辺りを見回す。しかし、周りにはカフェで穏やかな時間を楽しむ人しかいなかった。