Anonymous〜この世界にいない君へ〜

警察手帳を取り出して紫月は訊ねる。男は一気に安堵したようで、その場に力無く座り込んでしまう。その目からは涙が出ていた。

「だ、大丈夫ですか!?一体何が!?」

「あんたが刑事さんなのか……。よかったぁ……。俺、ホームレスだからさ。スマホ持ってねぇんだよ」

男の顔がだんだん真っ青に変化していく。体もガタガタと震え出し、男は裏通りを指差しながら言った。

「裏通りの奥の方でさ、人が死んでんだよ……」

その一言で紫月の目つきがサッと変わった。ここにいてください、と男に告げると裏通りへと駆け出す。裏通りは時間帯関係なくいつもどこか薄暗く、カラスが漁っているのか生ゴミが散らばっている。

「ッ!」

紫月の鼻を異臭が突いた。この臭いを刑事である紫月は何度も嗅いだことがある。人が腐った臭いだ。

その現場を見た時、紫月の思考は停止した。ただその悲惨な現場を見ることしかできず、数分間、彼は動けなかった。