Anonymous〜この世界にいない君へ〜

酷く後悔した。それから薬物をやめようと思った。しかし、脳が鮮明に覚えた快楽を忘れることができなかった。

何度も男は薬物に手を出した。そして周りの人たちから次々と見放され、孤独になった。拘置所の無機質な壁はすっかり見慣れてしまった。

「ハァ……」

男の口から深いため息が出る。今日、男は拘置所を出所したばかりだ。住むところも仕事も何もない。生きるにはお金がいる。お金を得るには働くしかない。しかし、何度も警察に逮捕されている人間を雇う会社はゼロに近い。

「また日雇いか……」

もう若くない体に鞭を打ち、自分よりも一回り以上年下の人間に怒鳴られることに男はげんなりと肩を落とす。しかしこうなったのは自業自得だ。

輝く街の明かりに眩しさを感じながら男は夜道を歩く。少し歩いていると河川敷に出た。遠くに明かりのついた家々が見える。

(きっと、どの家も温かいんだろうなぁ)

男はただ虚しかった。覚醒剤と大麻に手を出したあの瞬間に、自分の「平穏な日常」は消え去った。順調に進んでいた道は崩落し、谷底へ落ちていった。