Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「このケーキ、甘いな」

「お前の舌はどうなっているんだ」

紫月は思わず突っ込んでしまう。アノニマスは不思議そうな顔で首を傾げていた。

「香辛料の取り過ぎで味覚がおかしいんじゃないのか?辛さは味覚じゃなくて痛覚なんだぞ!」

「スパイスは体にいいんだぞ。お前も試してみたらどうだ?」

「断る。お前のキッチンに並んだスパイスを見るだけで舌がヒリヒリするんだ」

「想像力豊かだな」

アノニマスが笑う。その笑みに紫月の胸が高鳴った。目の前の彼女から目が離せない。ケーキを食べているだけだというのに、何よりも美しいものに見えてしまう。

壁に掛けられたアンティーク調のおしゃれな時計の針が進む。もうこんな時間なのかと紫月は驚いた。アノニマスと一緒に過ごす時間は瞬きをするほど早く過ぎていく。

「アノニマス。実はプレゼントがあるんだ」

「プレゼント?ケーキを貰ったのにか?」

少し驚いた様子のアノニマスに紫月は苦笑した。彼女は、誕生日という日が特別なものだということを知らないようだ。