Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「ケーキなんて初めてだ」

「一度も食べたことがないのか?」

「翡翠が泉家の養子になった頃、泉夫妻がシュークリームを買ってくれたんだが甘すぎて食べられなかった」

「シュークリーム、俺は好きなんだがな」

そんな話をしながら椅子に向かい合って座る。フォークを手にし、ケーキに刺して口に運ぶ。紫月の舌にチョコレートのほろ苦さが広がる。チョコレートはチョコレートでも、カカオ濃度の高いものを使用しているため、普通のチョコレートケーキより苦みが強いことをケーキを予約した際、パティシエから言われたことを紫月は思い出した。

「苦いな……」

ケーキを食べ進める手が止まる。スイーツビュッフェなどに足を運んだ際、普段の紫月ならばケーキ一個など十分もしないうちに完食してしまう。しかし、それは砂糖がふんだんに使われた甘いものだ。

ケーキの苦みに苦しむ紫月の前で、アノニマスはパクパクとケーキを食べていく。そして、固まったままの紫月を見たアノニマスは言った。