親愛なる魔王様へ〜The Beast〜

町は平和だ。平和一色に染まっている。顔を上げて周りを見れば、道行く人たちはみんな笑っていた。誰もこれから起こる悲劇なんて当然知らない。

(この人たちの笑顔を僕たちが奪うんだ……)

望月光だったなら、きっと深い罪悪感を抱いていただろう。でもルーチェ・クロウディアは何も感じない。僕はクラル様の側近だ。ディスペア家のものだ。クラル様たちのすることが正しくて、僕の世界そのものだ。

「ルーチェ、緊張してる?」

クラル様が立ち止まり、僕をジッと見つめる。夕日の中のクラル様の目は燃えているようで、クラル様の目を見ている時は周りの音が何も聞こえなくなった。まるで無意識に聴覚が消えてしまったみたいだ。

「いえ、大丈夫です。クラル様がついていますから」

「俺もルーチェがいてよかったよ」

クラル様が微笑む。僕はこの人の役に立ちたい。そのためならばこんな町なんて焼き尽くす。拳を握り締めて歩き続けた。

やがて広場に辿り着く。町の中心ということもあって賑やかだ。僕がフードを取ると、クラル様もフードを取った。