「私はアレクシス殿下を好きだったわ。殿下も私を望んでくれると思っていた。でも、現実は魅了の魔法に負けちゃった」
涙声で震えていたけれど、リディアは自分に言い聞かせるように言葉をつぶやいていた。
ゲームのリディアは、ずっとずっと、耐えていたのだと思うと、なんだかすごく心が痛む。
「……だからね、フィリベルトさまが私を望んでくれたことは、嬉しいと思うのよ」
静かに私から離れて、頬に触れると泣き笑いのようにくしゃっとした表情で見つめてきた。
「……アレクシス殿下とは紡げなかった愛。でも、もしかしたらあなたとフィリベルトさまなら、紡いでいけるかもしれないわね」
「リディア……」
「私の恋は終わったこと。あなたはあなたの恋を、紡いでいってね」
すっと指を絡ませて、目を伏せる。額にちゅっと軽いリップ音を立てて、リディアは私の中に入っていった。――私が、『リディア』であることを、許してくれたかのように。
ハッとして目を開けると、真っ暗だった。
これは、夢? それとも、現実? 辺りを見渡して目を凝らすけれど、なにも見えない。
「リディア嬢、いますか?」
扉を数回ノックする音と、フィリベルトさまの声が耳に届いた。
「は、はい。どうぞ」
慌ててベッドから起き上がって、扉に向かう。ガチャリと扉が開き、フィリベルトさまが部屋の中に入ろうとして、中が暗いことに気付いて燭台に火をつける。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「あ、いえ。その……少し、疲れていたようです」



