【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

「フィリベルトさま……」
「ところで、アレクシス殿下。リディア嬢に謝罪のひとつもないのですか?」

 今度はフィリベルトさまが切り込んでいった。ちょっと待って、ねえ。まだ私、全然彼らに攻撃できていないのだけど――!?

「俺が、リディアに?」
「そこの令嬢の言葉を鵜吞(うの)みにして、彼女を紛糾しましたよね。なぜです? 調べもしないで紛糾していたように見えましたが?」

 調べてなかったんかい! 心の中でツッコミを入れ、呆れた表情を浮かべてしまい、マダムに咳払いをされた。

 慌てて扇子を広げて口元を隠す。フローラはまだ、カタカタと震えていた。

「殿下も聞いたでしょう? そこの令嬢がリディア嬢になにをされたと言ったのかを。しかし、彼女にそんなことをする暇があったと、本当にお思いなのですか?」
「そ、それは――……」

 殿下が唇を噛み締めた。

 フローラは「信じられない!」という表情を浮かべている。あれはなんだろう、口裏を合わせてよってことなのかしら?

「わ、私たちは確かにフローラさまがずぶ濡れになったところを見ましたわ!」

 おや、フローラの『ご友人』のひとりが声を荒げてきたぞ。マダムの鋭い視線に射貫かれて、「ひっ」と短い悲鳴を上げた。マダムは大きくため息を吐く。

「ではお聞きしますが、フローラさまに水をかけた私の姿を見た、と?」
貴女(あなた)は足早にその場を去ったのでしょう!?」
「あら、私の姿を見ていないのに、どうして私がやったと?」
「フローラさまがそうおっしゃって……あら? どうして私、ここにいるのかしら……?」

 私に食ってかかったうちのひとりが、今の状況を理解できないように目を(またた)かせた。

 フローラがぎょっと目を大きく見開いた。そして、彼女の『ご友人』と殿下は頭を抱えて唸り出した。マダムは首をかしげ、フローラは唇を噛み締めて私を睨みつける。