どう見てもリディア対アレクシス殿下とフローラ。こちらの味方はいないってことかしらね。

「そんな、ひどい……」

 うるっと瞳を濡らして殿下の袖を掴んで、弱々しく声を発するフローラ。

 弱々しいのに透き通る声のおかげで、一斉に視線を浴びる私。

 さて、リディア。ここからどうする? ちょっと記憶も落ち着いてきたから、淡々と事実を告げてみよう。

「私、フローラさまが階段から落ちたところを目撃しただけですわ」
「証人は?」
「それをおっしゃるのなら、私がフローラさまを突き落としたという証人はどこにいますの?」
「それなら、いるぞ!」

 ふむ。リディアとして記憶もちゃんと私の中にある。その記憶をたどると、フローラは勝手に(つまづ)いて転んだって感じだった。

 思わず助けようとして手を伸ばしたけど、もしかしてその手を見て突き落としたと思った? 人の思い込みって怖いよね。

「では、証人をお呼びください」
「――よいだろう。ここへ」

 アレクシス殿下が証人として呼んだのは、セシリアという上級生だった。戸惑っていることがよくわかる。彼女はおそるおそる口を開いた。

「わ、私は確かに見ましたわ。リディアさまがフローラさまを突き飛ばしているところを!」
「では、どのように突き飛ばしたのか、真似してくださる?」

 私が動きを再現するようにうながすと、彼女は突き飛ばしたときのポーズを取る。両手を突き出したポーズだ。