【書籍化】狼皇子の継母になった私の幸せもふもふ家族計画

 カタルは小さなため息を吐いた。
 オリバーの顔が引きつる。彼は頭をガシガシと掻くと、カタルを荷物だらけのソファに促した。ぬるい紅茶を二人分入れる。

「きちんと説明してくれないか?」
「説明も何も、妻が他の男の子を身籠もったらしい。それしかわからん」
「それしかって……。相手の男は?」
「さあな」
「さあなって……。どうするつもりだ?」

 カタルはぬるい紅茶を飲み干す。
 その質問に意味はあるのだろうか。父親でもないカタルになんの権利があるというのか。

「私の子として産んでもらうつもりだ」
「人間だぞ?」

 カタルは静かに頷く。不義の子ということは、狼の血を引いていないということだ。皇族として育てるのは難しい。それをいつまでも他の皇族たちに秘密にはできないだろう。
 そして、人間に皇族の秘密を明かすことはできない。生まれてきた子どもは皇族としての教えを学ばせることはできないだろう。

「今、追い出せば三人の命を奪うことになる」

 皇族の秘密を守るため、帝国法は皇族を騙す人間に厳しい。とりわけ子どもに関しては。

「私の子として産んでもらい、死産として届けるつもりだ」
「それで?」
「死産だったという理由でクロエと離縁する」
「馬鹿だな。それだとカタル、おまえが悪者になる」
「構わん。それで三人の命が救われるんだ。悪評くらい請け負うさ」

 カタルは苦笑した。オリバーは顔を歪め、ぬるい紅茶を一気にあおる。まるで酒のようだ。彼の表情はカタルよりも苦しそうに見えた。

「つらいか?」
「いいや。まったく」
「裏切られたのに?」
「元々愛のない結婚だ。『ああ、そうか』と思ったくらいだ」

 ああ、そうか。やはり好きな男がいたんだな、と。生まれる前に知ることができただけ幸運だとすら思える。