【書籍化】狼皇子の継母になった私の幸せもふもふ家族計画

 アッシュの身体が宙に浮く。
 シャルロッテが動くよりも早く、カタルが踏み込んでいた。彼は床に向かって腕を伸ばす。
 床にぶつかる寸前で、彼はアッシュを抱きとめた。

「怪我はないか?」
「キュゥン……」
「そうか」

 アッシュはカタルの腕の中で嬉しそうに鳴く。言葉は少ないけれど、アッシュを見るカタルの顔は今までで一番優しい顔をしていた。

「バ、バケモノっ……」

 マリンは腰を抜かしたまま後ずさった。声が震えている。
 彼女に一言申そうとシャルロッテは一歩足を踏み出したが、カタルに制された。
 カタルはシャルロッテにアッシュを預けると、一歩、二歩とマリンの元に近づいていく。
 腰を抜かしたマリンは、震えながらカタルを見上げた。

「あ、あんたら何なの!? そんな平気な顔でバケモノを触って……」
「……よく聞け、私の息子はバケモノではない」

 カタルが低い声で言った瞬間、カタルの身体が光に包まれた。そして、目の前には灰色の大きな狼が立っていたのだ。
 マリンは口をパクパクさせ、狼を仰ぎ見る。すでに声すら出す余裕はないようだ。
 狼が唸った。地響きのような低い声。マリンの身体がガタガタと震える。
 狼が吠え、鋭い爪を振り上げた瞬間、マリンは「ギャー!」という大きな叫び声をあげて、気を失った。
 ほんの一瞬のことだ。
 圧倒的な存在感。
 シャルロッテは呆然と狼を見た。白混じりの灰色の狼だ。黄金の眼がシャルロッテに向けられる。