「まさか、カタルが指一本も手を出していないとは相手も知らなかった、ということか……」

 オリバーが苦笑をもらす。

「これからどうする? 計画が全部だめになったわけだけど」

 生まれたばかりの赤子はすやすやと眠っていた。大人たちの都合など関係ないとばかりに、狼の子は夢の中にいる。

「この子は私の子として育てよう」
「他人の子を育てるつもりか?」
「狼の子だ。不義の子として肩身の狭い思いをするよりも、私の子として育ったほうが幾分か幸せだろう」

 クロエを尋問すれば父親はわかるだろう。しかし、父親には家族がいる可能性が高い。その妻も、二人のあいだにいる子も全員が傷つく。

「そんなことより、クロエのことはどうするの?」
「狼の子を見られた。放っておくわけにはいかない」

 カタルは大きく息を吐き出した。ベッドに眠るクロエは、奥歯を噛みしめ顔を歪めている。錯乱するほどだ。よほどの恐怖だったのだろう。
 オリバーはクロエの寝顔を覗き込み、肩を落とす。

「彼女には悪いが、記憶を改ざんするしかないだろうね」
「すまない。面倒をかける」
「いいさ。だけど、整合性を取るためにも時間がかかると思う」
「ああ、ここだと色々まずいな」