彼女は騙そうと思えば、できたはずだ。ずる賢い女であれば、何でもない振りをしてカタルと褥を共にしただろう。
そうなっていたら、人間の姿をした赤子を抱いて絶望したかもしれない。
そういう意味では感謝していた。今ならばいくらでも対策が立てられるからだ。
愛してはいない。だが、一度は夫婦になったよしみだ。本当に愛する人と結ばれる手伝いをしよう。そう思えるだけの余裕がある。
「実のところ、安心してる」
「安心?」
「愛のない夫婦のあいだにできた可哀想な子を、増やさずに済んだ」
この帝国を守るために皇族は多いほうがいい。海の向こう側の獣人が襲ってきたとき、対抗できるだけの力を持っているのは皇族とわずかな魔法使いの子孫だけ。
カタルの両親もまた、愛のない結婚をし兄とカタルを生んだ。皇族や貴族の結婚に愛など必要ないのかもしれない。しかし、愛に満ちた世界に憧れも強くあった。
生まれてくる子どもはカタルに関係ない。しかし、両親には愛されて育つことを願っている。
「秘密裏に帝都から離れた場所に屋敷と使用人を用意してくれ。家族三人が暮らせるように」
「裏切られた男がそこまでしてやる義理はないように思うけどね」
「出産祝いだ」
カタルは自嘲気味に笑った。
クロエの腹の子は順調に育っていった。
獣人の子は獣の姿で生まれるため、皇族の出産は皇族の女性が行う。これは「高貴な子を取り上げられるのは高貴な者のみ」というもっともらしい理由を先人たちが作ってくれていた。
子を取り上げるのは、オリバーの姉のディアナに頼んだ。彼女ならばカタルの秘密を墓場まで持って行ってくれるだろう。
母親が人間の場合、出産前に精神魔法をかける。生んだ我が子にが獣の姿で現れれば、精神を病む可能性があるからだ。
しかし、今回その必要はない。だから、オリバーは魔法をかけるためではなく、死産をでっちあげるための要員としてすぐ隣の部屋に控えてもらっていた。
計画は順調だった。
三時間にわたる出産の末、ディアナが子を取り上げるまでは。
「なんで……狼の子が生まれるの……?」
そうなっていたら、人間の姿をした赤子を抱いて絶望したかもしれない。
そういう意味では感謝していた。今ならばいくらでも対策が立てられるからだ。
愛してはいない。だが、一度は夫婦になったよしみだ。本当に愛する人と結ばれる手伝いをしよう。そう思えるだけの余裕がある。
「実のところ、安心してる」
「安心?」
「愛のない夫婦のあいだにできた可哀想な子を、増やさずに済んだ」
この帝国を守るために皇族は多いほうがいい。海の向こう側の獣人が襲ってきたとき、対抗できるだけの力を持っているのは皇族とわずかな魔法使いの子孫だけ。
カタルの両親もまた、愛のない結婚をし兄とカタルを生んだ。皇族や貴族の結婚に愛など必要ないのかもしれない。しかし、愛に満ちた世界に憧れも強くあった。
生まれてくる子どもはカタルに関係ない。しかし、両親には愛されて育つことを願っている。
「秘密裏に帝都から離れた場所に屋敷と使用人を用意してくれ。家族三人が暮らせるように」
「裏切られた男がそこまでしてやる義理はないように思うけどね」
「出産祝いだ」
カタルは自嘲気味に笑った。
クロエの腹の子は順調に育っていった。
獣人の子は獣の姿で生まれるため、皇族の出産は皇族の女性が行う。これは「高貴な子を取り上げられるのは高貴な者のみ」というもっともらしい理由を先人たちが作ってくれていた。
子を取り上げるのは、オリバーの姉のディアナに頼んだ。彼女ならばカタルの秘密を墓場まで持って行ってくれるだろう。
母親が人間の場合、出産前に精神魔法をかける。生んだ我が子にが獣の姿で現れれば、精神を病む可能性があるからだ。
しかし、今回その必要はない。だから、オリバーは魔法をかけるためではなく、死産をでっちあげるための要員としてすぐ隣の部屋に控えてもらっていた。
計画は順調だった。
三時間にわたる出産の末、ディアナが子を取り上げるまでは。
「なんで……狼の子が生まれるの……?」



