あの人は今頃お山にいるのに、私はぬくぬくと安全な場所で弟に心配されている。
ああいやだ。自分がいやだ。
「姉さんに死なれては困るんですよ」
「死なない。たとえ死んでも、誰かのためになるなら後悔しない」
「そういうんじゃない。まったく姉さんは俺の気持ちを考えてはくれないのですね。何度も伝えているはずですが。姉さんは俺のすべてだと」
肩を掴まれ、そっと畳に倒される。
呆れたような息をついた守助の表情はどこか悔しそうで哀しげだった。
「姉さん。好きです」
「私だって」
「愛しています」
「私も愛しているよ」
「これはおもしろい。なにも交わっていない」
目尻を歪めた守助が私の頬に口付けた。
落ちてきた唇には熱がこもっていて、いつもとは違う、なにか不思議なものをおぼえる。



