『アメノミコト』で、裏切り者が出たら、どうなるか。

痛いほどによく分かっている。

裏切り者の始末だって、僕の仕事の一つだったから。

裏切り者は、地の果てまで追いかけてでも殺す。

それが、『アメノミコト』の鉄則だった。

僕は、突然ハッとして気づいた。

…裏切りなんて、どうして僕はそんなことを考えたんだろう。

今まで、裏切りなんて考えたこともなかったのに。

裏切り者がどうなるか、誰よりもよく分かっているはずなのに。

僕は何を考えてる。

そんな馬鹿な考えはやめろ。裏切りなんて、絶対に考えてはいけない。

『アメノミコト』は、裏切り者を許さない。

裏切り者が出たら、地の果てまで追われる。

そして、組織に連れ戻され、嬲り殺しにされ、遺体は山に捨てられ、野犬や熊のエサになる。

安穏と生きられるはずがない。

大体そんなこと、僕が殺した人々が許さない。

僕みたいな、人を殺すことにしか値打ちのない人間に、どうして人並みの幸せを願えようか。

足を洗うなんて、出来る訳がない。

出来る訳がないんだよ。

どんなに眩しく見えても、僕は、僕だけは、そちらには行けないのだ。

僕だけは。

「…やらなきゃ」

もう、時間がない。

僕に残された時間は、あと三日。

それまでにターゲットを殺せなかったら、僕は裏切り者とみなされる。

言い訳も弁明も、あの頭領には通じない。

三月で殺せと言われたのだから、それを達成出来なかったら、僕はもう役立たずだ。

「殺らなきゃ…」

何でだろう。力が入らない。

いつもみたいに、何とも思わずに人を殺すことが出来ない。

何で?どうして?

あぁ、勘が戻らない。

いつもと同じことをすれば良いだけなのに。

どうして、僕の手はこんなにも震えるのだろう?