「私達アルデン人がいなくなれば、それは『あるべき世界』になるのですか」

「間違っちゃいないが、それだけじゃ足りないな」

「…何ですって?」

「まずはお前みたいな、シルナ・エインリーに洗脳された手駒達を、全員殺す」

「…!」

つまり、聖魔騎士団魔導部隊のことか。

「何故私達を…」

「お前達は神を穢した。聖なる神を封印し、邪神の味方をしている。シルナ・エインリーに洗脳されてな」

「私達は、洗脳などされていません」

「分かっちゃいねぇな。洗脳されてる奴は、気づいてないもんさ」

会話を絶やすな。

少しでも、長く時間を稼ぐのだ。

「シルナ・エインリー学院長は、もう充分に苦しみました。たった一人で、全ての苦悩を背負って…」

「だから何だ?イーニシュフェルトの聖賢者なる者、それくらい当然だろ」

「いいえ、関係ありません」

イーニシュフェルトの聖賢者。

それが、学院長先生の肩書き。

でも彼は、その呼び名のせいで、酷い苦痛と孤独を背負った。

私自身、学院長やアトラスさんに会うまでは、ずっと孤独だった。

だから、孤独がどれほど苦しいものか、よく知っている。

その孤独が満たされたときの喜びも、私はよく知っている。

勿論、私ごときの孤独など、世界を背負う学院長先生の孤独とは、比べ物にならないと分かっているけれど。

でも、その片鱗くらいは、私にも分かる。

「学院長先生も人間です。神を殺すだけの機械にはなれません」

だからこそ、学院長は羽久さんの手を取った。

例えそれが間違いなのだとしても。

決して許されない罪なのだとしても。

誰が、彼の味わった孤独と苦しみを理解出来ようか。

人が感情を持つ生き物である限り、幸せを求める欲求は、誰にも消せない。

この私でさえも。

「…下らん戯れ言だ」

「何とでも言いなさい」

…充分、時間は稼がせてもらった。