運動会、という言葉を聞いて。

イレースは、特大の溜め息をついた。

「…そんなものやってたんですか。この学院は」

この、軽蔑の眼差し。

「え、そんなもの…?」

対する、シルナの間抜けな顔。

「運動会だよ、イレースちゃん。運動会楽しいよね!」

「ラミッドフルス魔導学院に、運動会なんてものはありませんよ」

「えぇぇぇぇ!?」

ちょ、絶叫や

鼓膜破れかねん勢いの「えぇぇぇぇ」だった。

へぇ。

ラミッドフルスって、運動会ないんだ。

それは初めて知った。

まぁ、特に珍しくもないか。

「な、何で…!?何でそんな恐ろしいことが…」

わなわなと震えるシルナ。

「運動会のない学校なんて…チョコケーキを売ってないケーキ屋さんと一緒だよ!」

お前は、学校というものを何だと思ってるんだ。

シルナにとって運動会は、ケーキ屋のチョコケーキと同列らしい。

ケーキ屋に失礼だろ。

「何で運動会しないの!?何で?何でなの!?」

イレースにすがるシルナ。

おい、みっともないからやめろ。

「何でと言われましても…。時間の無駄だからですよ」

「時間の、無駄!?」

考えてもみなかった、みたいな顔で愕然とするシルナ。

…まぁ、シルナの手前、俺も今まで口を挟みはしなかったけどさ。

口を挟んだところで、シルナが考えを改めるはずがないって、分かってたし。

でも。

そういう方針の魔導学院が少なくないってことは、俺も知ってた。

何故、運動会がないのか。

イレースの言う通り、時間の無駄だからだ。

「他の、普通科の一般の高校ならいざ知らず…」

と、イレース。

「ここは魔導学院。それも、ただの魔導学院ではありません。将来、聖魔騎士団魔導部隊に所属する魔導師を要請するエリート魔導学院の一つ」

イーニシュフェルトしかり。

ラミッドフルスしかり。

「そんな学院の生徒が、魔導の勉強以外に費やす時間など、あってはなりません」

「…!!」

「徒競走だの綱引きだの、やってる暇があったら…魔導理論の一つでも覚えなさい。その方が、余程時間を効率的に使えます」

「…」

「時間は有限です。学生時代は、余計に。一分一秒、無駄にして良い時間などありません。運動会など馬鹿らしい。その時間を授業に回すべきです」

イレース、一刀両断。

そして、それは紛れもなく正論である。