深を知る雨




誰もが考えた

今回の戦争は
そう長く続かないであろうと

圧倒的な戦力差があったからだ

大英帝国
イタリィ
新ソビエト

彼らはすぐに降伏するだろう――

一般国民の誰もが、そう思っていた





 《20:00 大中華帝国》


いつものようにやるはずだった。

敵国の戦闘機を制御不能にして墜落させ、生き残りをこの手で、仲間と共に殺すつもりだった。

今回は沢山の兵がいる。

私たちは後方支援だ。

いつものように、すぐ終わると思っていた。


なのに――――――能力が使えない。

発動はしている。なのに効かない。



防御能力?

いや違う。

防御というよりは打消しだ。

誰だ?

私の電脳能力を妨害できる人間なんているはずがない。

敵国の能力者の能力種と能力レベルはできる限り調べた。

でもこんな馬鹿力を持つ能力者なんて、調べた限りではいなかった。こんな目立ったパワーのある人間が、調べて出てこないはずがないのに。


――――ヤバいのがいる。まだいる。


恐らく敵国サイドの隠し球だ。

情報戦においては最強のつもりでいたけど、甘かったらしい。こんな馬鹿げた力は想定外だ。

Sランクなんてもんじゃない。

ロイ?いや違う。もっと酷い。

本能的に思った。

私たちが勝てる相手ではないと。


「――――撤退だ!!」


気付けばそう叫んでいた。

この戦争が始まって初めてのことだった。


「……はァ?ここで撤退したら占領されるよォ?」
「それでもいい!撤退だ!このまま戦ったら間違いなく全滅する!!」


怒鳴ると、ティエンは不可解そうに眉を寄せつつも他の兵に指示を出す。

様子を見なければならない。

相手がどんな能力者か分からないと打つ手がない。


酷く嫌な予感がした。

胸騒ぎが収まらない。

絶対に勝つつもりでいた。


なのに。

――――どうしてだか今になって、絶対に勝てないような気がしてきたのだ。


圧倒的な力を前に何もできないような無力感があった。