こわれて星




「糸川ごめん〜、今日彼氏ん家行くから先帰るねぇ」



びっくりするほど早く帰る支度を終えていたサキが、クラスメイトをかき分けて私のところに来るなり可愛らしく手を合わせる。


ウインクをするほど余裕で、何だか嬉しそうな表情に、思わず苦笑した。昨日も彼氏のとこ行ってたのに早く会いたいって顔してる。



「うん、気をつけて」

「ありがと! また連絡するね」



私の返事を聞いてひらひらと手を振りながら帰って行ったサキに、頷きながら手を振り返した。


途中だった支度をさっと済ませて鞄を肩にかける。このあとの予定を立てようとはしゃぐクラスメイトの横を抜けて教室を出た。


廊下も人が行き交い、できるだけ端を歩く。予定もないけど早歩きになってしまうの何でかわからないけど。


階段をおりて昇降口に辿り着くと、疎らに人がいて。早めに教室を出ていたらしいホワイトブロンドの彼が…、芽吹が、ちょうど靴を履き替えていた。


チラリと私を見たチョコレート色の眼に、変に鼓動が跳ねる。たぶんそれは学校で会う彼だったから。



「すい、」



目が合うと彼が私を呼んで、何となく躊躇いながら口を開こうとした瞬間、



「深山くんっ!」



すこし高めに発された、彼の名字が空を切った。


私の横を通って芽吹に近づいたのは見覚えのない女の子。さらりと風に靡くように揺れたポニーテール。緊張したような横顔を最後に、その子の表情が私からは見えなくなる。


芽吹は、すこし私を見つめたあと、視線をその子のほうに向けた。名前を呼ぶの先越されたな、なんて今まで思わなかった事柄が急に脳内に浮かぶ。


振り払うように上靴を脱ぎ、ローファーに履き替えるついでに頭をすこし振った。何となくモヤ、って。別に小さいことだけど。



「あの、わたし…、深山くんに伝えたいことがあってっ。きょ、今日一緒に帰れないかなっ?」



なかなかの声量で言い切った言葉に、若干周りの空気も静かになったような気がする。顔を上げて辺りを見渡すと、近くにいたクラスメイトも驚愕の表情を浮かべて手で口を覆っていた。


上靴を靴箱に仕舞い、芽吹のほうに視線を向ける。彼はいつもの無表情でその子を見ていて、またモヤ、って。何も無い脳内が支配される。


私、カンケイないよ。芽吹はすごくもてる。女子から人気だし、きっと今までもこんなことたくさんあった。今更こんなこと思わなくても良いはず。


見ないで。



「ごめん、無理」



スマホを確認するふりをして俯いた私の耳に、芽吹の平坦な声が入ってきた。



「じゃあ別日とか、ならっ」



困ったようなその子の急いだ言葉に彼が何て言うのか知りたくて、俯いたままでいた私は、やっぱりわるいんだと思う。



「好きな女がいる。誤解されたくない」



だってやっぱり芽吹の全部、渡したくない。


耳がかあっと熱くなる。そんな私に気づかないクラスメイトは同情を示しつつも彼の言葉にざわめいて。きっとすぐに噂になってしまうんだろうなってどこか呑気に思った。


ふう、とバレないように深呼吸をして顔を上げる。靴箱に向き直っていた私に、ふっと影が落ちてきた。



「おまえだよ。きーてんの?」



不満を込めた声と一緒に。