こわれて星




「まあまあ落ち着こうね、ふたりとも。朝から口喧嘩は無しでーす」

「別に口喧嘩とかじゃない」

「糸川ぁ拗ねないの」



頬杖をついた私を見ながら、隣の席の椅子を引っ張ってきて座ったサキが扇風機の風を顔に当ててきた。思わず目を瞑るとサキが嬉しそうに笑い声を零す。


ギィ、と音がしてすこし目を開けると、砂原が私の前の席に腰を降ろした。爽やかな笑顔を浮かべていて、朝から喧しい。



「夏休み、楽しんでたみたいで良かったよ」



唐突にそう言った砂原に、首を傾げる。



「砂原くんって絶対マゾじゃん」

「崎田ちゃん意外とバッサリ言うよね、俺そんな趣味ないって」

「いーや怪しいよ、否定するあたり」

「まじ? 気をつけようかな」



サキが茶々入れてきたあたりから聞き流していたけれどどうやら砂原にマゾ疑惑が出ているようだった。うん、私もそうだと思う。


芽吹にまたバスケ対決をしようと誘っていたし、揶揄うためにわざと私に関することを連絡をしていたらしいし。



「きーてる? 彗ちゃん」

「うん。砂原、マゾなんだね」

「いっちばん聞かなくていいとこ聞いてるね」



眉を下げて困ったような表情を浮かべた砂原に、サキは机を軽く叩くほど笑いを堪えきれないでいた。


しばらく砂原は訂正の説明をブツブツと言っていてサキはその度にヒィヒィと呼吸困難を繰り返して。そんななか、教室に芽吹が姿を現したから、私の視線は簡単に奪われた。


私と目が合うと彼はいつもの無表情を静かに綻ばせかけて、きゅっと顰める。学校で会う彼、らしからぬ表情に内心首を傾げた。


芽吹が席につくと何人かの女子が彼に近寄って何か話しかけていて、珍しいこともあるな、なんて。



「あ〜嫉妬? これ嫉妬ですよねぇ、砂原くん」

「確実にそうですよね〜。え? あんなに目ガッツリ合わせておいてバレてないって思ってるのかな? アイツまじで頭おかしい本当くたばれ」

「あの、朝から喧嘩腰なのうるさいよ。でもあれでバレてないって思ってるの、何かもうウブで可愛んだけど〜」

「さすがに崎田ちゃんだけは俺の味方でいてくれない? ただでさえ彗ちゃんは深山側なんだからさ」



思っていた私の耳に"わざと"聞こえるように会話をするサキと砂原。芽吹から視線をシフトすると、2人はわざとらしく慌てた様子を見せる。



「何、さっきから」



これだからこの2人は。


夏休みの間にサキには色々と黙っていたことを謝った上で芽吹とのカンケイを打ち明けた。最初はかなり驚いて、持っていたアイスをコーンの部分だけ綺麗に残して落とすほど動転していた彼女。申し訳ない気持ちでいっぱいだった私を、すぐにキラキラした瞳で抱きしめてくれた時はとても安堵したのに。


砂原だってそう。一応報告と思って会って話せば。深山のどこがいいのかさっぱりわからない、とか。彗ちゃん趣味悪い、とか。別れたら俺のとこ来ていいよ、とか。ちょっと腹立つ、とか。なんかムカつくけどおめでとう、とか。意味のわからない祝福をした後に、いつもの爽やかな笑顔で"頑張ったんだね"と私にだけ聞こえるように言ってきたのに。