「そーいうの言うなよ」
呆れた物言いに振り返る。ちょっと楽しんじゃってるの同じなのに。
「俺ん家は嫌なのに自分はいーの?」
「うん。親帰ってこないから」
「そ。なら遠慮なく」
砂原には言ってしまったこともいつか芽吹、聞いてくれるかな。今は言いたくないからいつかは聞いて欲しい。
今は芽吹の言葉だけでいい。
それに芽吹、私が言いたくないって思っていたら、きっと無理には聞き出さないから。今だってそう。本当は気にしてるのに彼はやさしい。
気にしない素振りが私のせいで身についてしまった彼の、胸元にしがみついた。
「どーしたの」
「ううん。何もない」
精一杯背伸びをすると解ったように唇を重ねた芽吹に私は心底甘えてしまってる。
「風呂、入ってこいよ」
「ふ。待ってて」
甘ったるくて仕方ない雰囲気のなか、彼の無表情が綻んだ。芽吹の笑顔、他に見せたくないかな。前はもっと見せればいいのに、なんて思ったけれど。
そう思うくらい傾倒してる。なんて、伝えたい。それが恋情を表した二文字ならまだ私は伝え慣れない。
自分の名前みたいなエピソードよりもっと確かな衝動で希って。恋われて欲しい。恋う瞳、私を見て。
冬みたいに凪いだ感情と、初夏を軽く凌駕する熱烈が急に同居したような胸中、こんなに平静が揺らいで。彼も同じならいいのに。否、きっと同じ。
数度唇を合わせる。
また、鼓動が高く鳴る。
「彗、」
壊れて欲しい、って、芽吹がずっと前に私に告げたこと。いつだったかな、いつの日も。
ずっと違うところに行ってみたかった。ここじゃないどこかに。星が飛ぶくらいの楽は確かに違う世界で、だから離れられないのかな。
「芽吹」
ううん、私が離れたくないのかも。
⸝⋆⸝⋆
⸝⋆⸝⋆
また平凡な夏休み。当然毎日おなじ時間を繰り返すようになった芽吹と私は、無事に課題を終えてゆっくりと休みを満喫するようになった。
お互いの家に行き来して、勿論私の親には内緒で。芽吹のお兄さんとお姉さんには会う機会はあったけどほんの挨拶程度。
美味しいと評判のプリンを持っていくと芽吹のお姉さんは嬉しそうにしていたから、何だか私まで気持ちが和らいで。すごく緊張した。
"大袈裟じゃね。彗が緊張とか似合わねー"、なんて芽吹が言うからムッとして、その日は口をきかなかったら甘ったるい仕返しをされた。
夏休みの中盤を過ぎたあたり、なぜか登校日が設定されていて学校に行くことになっていた。
「久しぶり糸川〜、って! そうでもないね!」
「おはよう、サキ。3日振り」
柔らかいミルクティーの髪色になったサキが、ミニ扇風機を片手に私の席までやってくる。
「げ、」
「げって何? 失礼だよね、彗ちゃん」
なぜか砂原を引き連れて。



