こわれて星




真剣に芽吹を見つめながらそう言うと、彼はすこし目を瞬かせた。



「今更じゃね」



ご最もの返答にもっと羞恥が上がってくる。



「走ってきたから汗かいてるの。尋常じゃないくらい」

「気になんないけど?」

「私が気にする」



夏だし今までもそういう場面はあったけど、やっぱり気になってしまう。



「お預けってこういう気持ちか」

「ごめんね芽吹、雰囲気壊して」

「や、いいって。俺も加減わかんなくなりそーだし」

「加減?」

「そ」



身体を起こした芽吹の言葉に首を傾げながら、上体を起こした。机の上の、氷が溶けたリンゴジュースが目に入る。思わず手にとって口に含んだ。


すこし水っぽい、あまり美味しいと言えない層が喉を過ぎていって。コップを口から離すと芽吹に取られてしまう。


ジュースを呷った彼はすこし眉間に皺を寄せて、甘い、と呟いた。


滴った水滴が芽吹の顎を伝って、それをウザったそうに拭った彼の視線が私に向く。慌てて逸らした意味もなく、顎を掴まれて急にキスされた。



「口直し?」

「だって彗が物欲しそうだから」



耳が熱くなる。
見られたくなくて次は私から唇を重ねた。



「かわいーね、彗チャン」

「ちがうから…」



前髪を額に押し付けながら下を向く。顔が勝手に熱いから見られたくない。気持ちまで火照ってしまって浮かされたみたいな気分。


確かにある喪失感と恐怖と、優越感と。この人は私でいいんだって安心と、誰にも渡したくない独占と、彗星のように過ぎて欲しくない恋心と、抱き締めたい庇護と。


いろんな感情が層になって積み重なって渦巻く最中、中心にいるのは芽吹だ。本当は言いたくない恋情の二文字を言ってしまうほどには彼のことを。


汗臭いから今は嫌、なんて言った私を、気にしない様子で抱き締める彼のことが私はずっと。


恋いている。渡したくない。壊されたい。


平静をずっと必死につくってみせるから、意図もしないタイミングで壊して欲しい。今までもそれだからハマっちゃってる。



「芽吹、今更だけど私でいいの?」

「彗がいーんだよ」



ほんと今更、って呆れずに言ってくれる声色に顔を上げた。