思わず黙った私を見て、もう一度「すき」というワードを零した彼の瞳は、ふかくて甘いチョコレートみたいな色。
今までと距離なんて何も変わらないのに、言葉ひとつで空気だけは簡単に変わってしまった。柄じゃない、らしくない。私達ってこんなんだったかな。
やっぱり変わってしまうの?好きとか嫌いとか。容易に区切られちゃった?それは違う。
「じゃ、キスして」
私って、私達って、こんなんだった。
「芽吹」
名前を呼べば私の額を撫でた芽吹が、ふっと柔らかい笑い声を落として私にキスをする。
彼はずっとやさしさだけをくれる。そのあまさが、たまに苦しいのにもっと欲しくて。転げた先が今のカンケイだったとしても、きっと冬のように凪いだ感情は必然で。
初夏みたいに衝動的で突発的で、止まらないほど熱発してるわけじゃない私の恋心。取り返しがついて欲しくない、冬の感情。
離れた隙間で涙を拭うと、芽吹は涙を拭った私の手を掴んで自分の唇に押し当てた。
「待たせてごめんね」
待たせてしまったから、いつだって。見上げた先、彼はいつになく美しい微笑みを浮かべて首を横に振る。
誰のものにもならないほうがいい存在、誰もの憧憬の的、美しいひと。芽吹はいつもどんな形でもあいされてる。
だけど。だけど、彼を誰にも渡したくなんてない。譲りたくない。そう思ったらもう彼の全部が欲しくてたまらない。
「いいよ、彗が俺のものになったから」
喜を含んだ声色がゆっくりと紡がれて、私の手をビーズクッションに押し付けた芽吹に唇を塞がれた。
「絶対逃がさねー」
砕けたような言い方だけど間近で見つめた彼は、息を飲むほど美しく、熱烈を灯した表情を緩める。
心臓が簡単に高鳴って、取り返しなんてついて欲しくない。初めて見る表情に苦しくなった。やさしさだけじゃない、執着の瞳。またひとつ、私のものになる。
ゆっくり首筋にキスを落とされて、勝手に心臓の高鳴りが継続して。落ち着かないまま目を閉じた瞬間、違う意味でハッとした。
「め、芽吹っ、待って」
「何」
空いていた手で彼の肩あたりを叩く。
「めぶき、」
「だから何」
上目遣いで私を睨むように見た芽吹の肩を押すと、彼はなぜか私の眦に口付けた。
「流されたりしないよ」
「違ぇよ、彗、どーしたの」
律儀に私の話を聞こうとするクセに、芽吹は頬を撫でたり顬にキスをしたりと忙しそうだ。誤魔化されるわけにはいかない理由あるのに。
羞恥と期待が競っているから意を決して口を開く。
「お風呂、入ってからじゃなきゃ…、やだ」



