すき。
言い切るとやっぱり喪失感、羞恥、たった二文字なはずなのに何となく耐えられない。
「お祭りの日、あの日言えなかった。好きとか言える自信がなかったから、ただのワガママで芽吹を束縛してるみたいで申し訳ないって……だから」
すき。って。
「ほんとは怖いよ」
言えば簡単なのに私の根底の、深い柵、だってそんなの言ったらいつかは。
いつか両親の思い出のようになると思った。好き、嫌い、は容易に区切りをつけられるワードだけど。人と人のカンケイを変える恐ろしい言葉。
あんなに言えなかったこの言葉も、芽吹の、切なく傷ついたような様子を前だと思いのほか流暢に出たけれど。
彼と私を変える甘い言葉。
「怖いよ、すきなの、芽吹」
私が彼を抱きしめるのも、彼が私の耳元で呼吸を繰り返すのも、重なる温度も重さも。何も変わらない。
ちょっとの沈黙すら思考はマイナスに流れていく。いつもの私らしくないって自分でも理解してるのに私になれない。
慣れない。醜い感情はもっとたくさんあるけれど、ずっとしまいこんでいた言葉は、口に馴染まなくて。
腕の力をすこし抜いて芽吹のホワイトブロンドに額を寄せた。
彼は自分の腕で身体を支えるように起こして私と目を合わせる。見つめた瞳は私だけで。ずっと、私だけで。
「思わねーよ」
ふっと解けた表情は、すこし喜を浮かべていた。
「ワガママなんてそんな可愛いもんじゃねーよ。ドがつくほどめんどくさくて馬鹿真面目で小心者で臆病で、おまえは」
ヒートアップするように早まった語尾の後、意図的な間のあと、
「彗、すきだよ」
かすれた声で芽吹は微笑んだ。
「自分の気持ちを、考えを言わなくてもいいって思ってるクセに、少しでも理解してもらえると嬉しそうにするところが好きだ」
「それはちょっと恥ずかしいよ」
「表情に感情が出にくいところも、出さないようにしてるところも好きだ」



