ハッと反射的に上体を起こす。
心持ちが、その場の気持ちが変わるだけでこんなにも素早く動けてしまう事実に妙な緊張が押し寄せてきた。
「な、何もしてない」
「そ? なら良いけど」
芽吹は机の上にお盆を置いて、無表情で私を見つめる。
「ありがとう」
彼が持ってきてくれたのはリンゴのジュースだった。急に来たのに用意をしてくれる律儀さに、ちょっとだけ罪悪が募る。
非常識、だったな。確実に。
机を挟んで真正面に腰をおろした芽吹は私の言葉に短く返事をして、ジュースを飲めと促すように顎を上げた。
コップを手に取りジュースを口に含むと沈黙が訪れ、心臓の音がやけに大きく鳴っている気分になる。
芽吹は何も言わずに胡座をかいて、ぼうっとどこか一点に視線を向けていた。
「芽吹」
コップを机に置いて、彼を呼ぶ。
「うん?」
「それ、どうしたの」
「え?」
私の視線の先をゆっくりと探り当てた彼は、それを認めると納得した様子で相槌をうつ。
「ああ、これ」
芽吹の左手は何故か包帯が巻かれていた。
「怪我、したの?」
「そー、だな。大したことねーけど」
「いつ?」
「今日」
今日って。
「バスケしたから?」
さっき会っていたばかりのヘラヘラとした笑顔がパッと頭のなかに浮かんだ。バスケで対決した、って確か言っていたはず。
それで砂原はまた負けたって、いつもみたいに何だかうざったそうだけど楽しそうに言ってて。
「何で彗がそれ知ってんの」
芽吹の固い声が、まっすぐ飛んできた。



