星に焦がれたことなんて一度もない。
きれいだとか一度も。流れて欲しいだとか一度も。一ミリも、誰かを浮かべたことなんて。
ロマンチストだった両親が、思い出を表すように名付けた私の名前。しあわせ詰まってて悲しい。もう色褪せているくせに。
私の名前をあいしてくれる人なんて存在しないでしょ、なんて。不幸自慢って言葉が存在するせいで不平不満言いたくないけれど。
言ってよ、欲しいって。言って。
星が飾られた空の下、何から何までわすれるために走っている。何から何まで伝えるために走ってる。呼吸する度に肺が、喉が、酷使。
星に焦がれたことなんて一度もない。
自分の名前みたいなエピソードなんて一度も。
なのにこんなに必死。一秒でも早く急いで、知って欲しいとか。涙出そうとか。なんか自分のまんなかがヒリヒリしてて堪らない。
こんなに焦がれて、会いたいとか。
どうかしてる。
どうかしてる?
誰のものでもないという存在位置に定められていたほうがいい、美しい彼。その彼を私はいつからか希ってる。
誰にも渡したくないって本気で思ってる。
「はあ、っ」
震え始めたスマホに足を止めた。
取り出して画面をろくに確認せずにタップして、耳に当てる。
「も、しもし」
途絶えそうな言葉を紡いで。すこし口元を押さえながらゆっくりと歩き始めた。走ってるって悟られるのが急に恥ずかしい。時間帯的に。
無言の相手に疑問符が浮かんで、もう一度繰り返す。ようやく口元から手を離すと、スマホの画面を見て。表示された名前と、
『彗』
聞こえてきた声に、次は私が黙る番だった。
『今、どこにいんの』
あんなに聞き慣れていたその声も電話口だと違和感で。あんなに勢いがあった気持ちも、すこしの迷いで心臓が鳴る。
『彗? 聞いてる?』
「き、きいてるよ」
『うん?』
動揺に声が震えて変に慌てた私に、彼だけは不思議そうで。
「今、芽吹の家のちかくの公園過ぎた」



