こわれて星




堤防から降りて振り返ると、頼りない灯りの下、砂原はあのきらきらしい笑顔を浮かべていた。



「惚気話は聞かないからね」

「安心して。ないから」

「どうかな」



すこし勢いよく吹いた潮風に、ロウソクの火がかき消される。


訪れた沈黙のなか、手を振る彼の笑顔は変わらずに。きらきらしさで、夏がよく似合う爽やかだった。


すこしだけ手を振り返す。


それで背を向けて、走り出した。




⸝⋆⸝⋆
⸝⋆⸝⋆

"ごめん。今から芽吹の家、行ってもいい?"


一方的なメッセージに返信は来てるのかな。わからない。それでも急ぐ忙しい私は、夜から逃げるように海の街を走った。


すこし冷えているはずの夜の気温に、私の体温だけが上がる。運動神経良くないし持久力もないし、でも急いでるし。


息が苦しいのに唇を噛んだ。流れる景色と夏の匂いに安堵した。街灯が横目をすり抜けていく。


よく訪れる店の前を通る。寄ったことがない本屋の前を通る。家と家の細い隙間道。角を曲がる。緩やかな坂。


見慣れたものなのに、夜だと違うものみたい。


いつだってそんなこと考えてた。学校で会う彼と、学校以外で会う彼。違う温度をどこか求めてた。


唇を解く。
足を止めてしゃがみこんだ。荒い息に心臓が忙しい。


すこし息を整えた狭間で、頬に流れた汗を拭う。運動不足でぐらぐらする。でも駄目、急いでる。



「よっ、と」



負けず嫌いを叱咤しながら立ち上がった。
ついでに見上げた星は霞むことなくキラキラ五月蝿く、怠いから無視する。


星に左右されること、そんなこと一度もない。


足を踏み出した。