一瞬驚いたような砂原は目を瞬かせて、いつもの爽やかな笑顔をすこし緩ませながら。
「良かった」
って静かに言った。
「何その顔」
「うれしいんだよ」
彼は地面に置いていたスマホを拾い上げて画面を開くような仕草をする。明るい光が砂原の顔を照らす。
笑顔を消して眉を寄せた彼に首を傾げれば、明るい光が私に向いた。
メッセージのトークルーム、見覚えのある名前、ひとことだけの吹き出し。胸奥が苦しくなる。
「砂原、えっと」
「彗ちゃんマジで俺のことフォローしてよね」
「わかった」
困ってしまった。嬉しいって渦巻いて、困った。今至急の欲求で、頭がいっぱいだ。SOS、ずっと。
「これ返事しなくていいよ」
ブルーライトが遠ざかる。
「私が言うから」
口に出すと、ここに存在している心地がした。
浮遊感と睡眠欲で満ちてた水色の空間認知に、負けないくらいの極彩色で上書きをした。どうでもいいって思い込んでいたことはどうでもよくない。
どうでもよくない。欲、ないことない。
恋は夏、7月は水色っぽい勝手なイメージ、それは呪いだ。固定観念、先入観、私の枷。
降参。白い旗を上げる。意地になっていたわるいこと言って、狡い論理証明して。
「彗ちゃんってそんなふうに笑うの」
柔らかく笑う砂原を見上げた。
「うん」
「そっか。ううん、なんかやっぱ、ずるいよね」
意味がわからない。だって自覚してる。
「何?」
「なんでもないよ」
わかってるから知らないふりをして、海に背を向けた。
「私、もう行くね」
言わなきゃいけない、言いたい、言えないこと全て。って言わなくてもいいこと。波の狭間にそう言えば、風が私のTシャツを閃かせる。
髪が頬を掠める。勝手にあつくなる。無駄な高揚感が、懐古の過去から引っ張りだされたみたいに夏になる。
「彗ちゃん」
夏に。
「ありがとう。じゃあね」



