「怠い、砂原」
「うん、ごめんね。あとで殴っていいよ、アイツのこと」
"何も言わねーなら俺が貰う" なんて、砂原、思ってないクセに。
ロウソクだけが灯るなかで、街灯も仄かで、それでもわかるのは彼が笑っていることだった。
「今日アイツに会ったんだ、けど。なんか陰鬱な顔しててうぜーし。バスケまた負けたから仕返ししてやろうかなって」
「懲りないね」
「俺、何事も諦めない主義なんだよね。勿論アイツを揶揄うことも」
「怒られても知んないよ」
「彗ちゃん、」
わかるのは、彼が私を見ていることだった。
「アイツ、彗ちゃんのこと好きだよ」
波の音が鳴る。ロウソクが揺らめく。藍の空の星も、流れはしないけど主張を残すようにきらめく。
わかっている。わかっていた。
波の音も、揺らめきも、きらめきも、わかっている。
わかっている。
あの夏祭りの花火の下、恋う言葉を言ってくれた、温度も深さもやさしさも。
「彗ちゃんを待ってるって」
温い風が髪ごと頬を滑った。
「知ってるよ、ぜんぶ。わかってる」
芽吹が、私を待っていることも。私が、彼を誰にも渡したくないことも。自分で理解してる。
アスファルトに置かれた砂原のスマホのブルーライト、ロウソク、頼りない街灯。月の明かり。
よく見える砂原は、真剣な顔をしている。私はどんな顔をしているのかわからないまま、彼を見返して、そのまま海の方を向いた。
「彗ちゃんは深山のことどー思ってるの?」
芽吹のことを、私は。
砂原が求める解を口にすることができない。簡単に言えば恋愛感情のことだと思う。でも、私はそれができない。
芽吹のことを、私は。
「芽吹は、私の冬なの」
初夏みたいな感情を生み出すことがあるのかなんて、一度は思ってみたけれど。結局恋しいのは冷水で、それは芽吹だと。
だから彼は冬。
私を冬みたいに凪いだ感情で掴んだひと。
「一緒にいて居心地良くて、呼吸が楽で、ちょっとだけ劣等感」
そう思ってる。いつからか。



