微笑んだ芽吹は私の頬にはりついた髪を、指先で避けて。
最後の花火が音を立てて打ち上がる。ひらいた夜空に目向きもせずに、彼だけにずっと必死な私にそれを見る余裕がなくて。
胸が震える開花音。一際明るい光。芽吹。
夏なんてなくなればいい。
「何でもいいから、──」
夏がなくなれば、夏にあてられた冬みたいな感情を、希うことなんてないから。
⸝⋆⸝⋆
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花火が終わって流れに沿うように解散した夏祭りの日から5日間、毎日のように会っていた芽吹と連絡すら取らなくなった。
代わりにうまれた時間で部屋の掃除家事、サキのバイト先に顔を出したり遊んだり。出来ることをやり尽くした。
元々両親は家を空けることが多いから、私がいてもいなくても変わらないように生活して。食事も個人個人で勝手に摂る。
ろくに動いていないせいで寝つきが悪い夜があっても仕方ない。
「だからって1人でコンビニ来るの、やめたほうがいいって糸川」
アイスの棚に寄りかかってそう言うサキは、午後9時を過ぎた時計を指さした。
「サキ早くバイト終わってよ」
「あのね。早く終わったとしても今日は相手できないの」
「彼氏の家行くから?」
「そう。彼氏の家行くから」
呆れたような物言いに拗ねたふりをする。それでも誤魔化されてくれずに、むしろ楽しみと言いたげに目が爛々としているサキ。
楽しそうで何よりだ。
私は一切楽しくない。
「家帰りたくない」
「インドア派のあんたが珍しいね。何かあった?」
「びっくりするほど何もない」
「ないのに帰りたくないの? 」
アイス棚の冷ややかさを浴びながら、サキの問いかけに頷いた。昼間に見つけた昔のアルバムとか、掃除中に整理した写真立てとか。
そんなもの思い出して気が落ちる。それが帰りたくない理由をひとつだった。
表向きは良いことだ。過去を振り返る品。私はどうしても良いと思えないことと、ある感情に対する後ろめたさが胸を突く。
要するに無駄なことばかり考えてる。
「色々飽きちゃって」



