「芽吹、喧嘩は」
流石に駄目。
なんて止めなきゃ芽吹が砂原を殴ってしまうって思うくらい、脳が短絡的に巡る。
「カンケーなくない」
芽吹の静かな声がそう言った。
「何も知らないクセに触んじゃねーよ。彗は、」
俯いた彼の言葉の続きが周囲の囁き声でかき消される。
喧嘩してるの、とか、店の人が何か怒らせたの、とか。そんな声ばかりに周りを見ると、道行く人が足を止めて芽吹と砂原を見つめていた。
胸ぐらを掴まれている砂原はなぜか驚いたように芽吹を見ていて、芽吹はやっぱり俯いたままでゆっくり手を離す。
今は嫌だって言った芽吹を思い出す。私も今は嫌、道行く人の勝手な憶測を彼に気づいてほしくない。
私は一歩踏み出して、芽吹の手を掴んだ。
「来て」
おどろいたような表情が私に向く前に、その場を切り抜けようと屋台と屋台の間から逃げ出した。
神社の通りから外れた、小道。木々は疎らで、小道の先には休憩できるような日除けと木製の長椅子と四つと大きめなテーブルがある。
そこには子どもを連れた人たちが居て、とても入れる雰囲気ではなかった。元来た道を戻って、神社の裏の方に回る。
仄暗くて人気がないけれど、提灯の灯りと屋台の灯りがほのかに届き、静かな場所だった。
「彗」
ようやく振り向くと、芽吹は困ったような顔をしている。
「ごめん、彗。変なとこ見せて」
そうじゃないのに。謝ってほしいわけじゃなかった。どう考えても私のせいで、私がいたせいで喧嘩っぽくなって。
何を言えばいいのかわからなくて、何をしたいのかわからなくて。わからない、で済ませてきたことが表面化して。
芽吹にそんな顔、してほしくないのに。
「私、芽吹をいつも困らせてる」
「え?」
「芽吹にいつもそんな顔させてるね」
指先が震える。温い風を切る。
冬みたいに冷たい彼の手を離した。走ったせいで背に流れた汗が服に染みて気持ち悪い。ぐるぐるする胸奥も、苦しい。
「そうだよ、彗のせいで」



