可愛い。カップル。デート。
「え、と」
咄嗟に何か言わなきゃ。って。
「そ。でも可愛いの俺じゃなくてコイツね」
思った私の耳にそんな言葉が入ってくる。
「芽吹、」
「ありがと。じゃーね」
悪戯っぽく笑ってそう言った彼は空いた手で私の手を掴んで、足早に歩き出した。
頬に熱が上がらない代わりに、掴まれた手が熱くて。周りは暑くて。顔に出せない感情が目まぐるしい。苦しい。
だって、なんか、だって。芽吹、私を何にしたいの。何言えばいいの。何もないのに。私は、何言いたいのかすらわからない。
「芽吹」
徐々にスピードを落としていく彼は、再び振り返って。
「なーにー」
って、何もなかったみたいに平坦に言った。
「なーにー、って。そんなに早く歩いたら零れるよ、ジュース」
「忘れてた。それひとくち頂戴」
「え、あ、うん」
持っていたジュースを差し出せば、そのまま赤いストローに口を付けた芽吹に、やっぱり何も言えなくて黙ってしまう。
何も言わなくてもいいって思ってきた所為で、本当に言いたいこと何ひとつ見つからないの、滑稽すぎて笑えない。
「美味しー」
堪能したらしい彼は驚いたようにそう言って離れていく。変に心臓が鳴って、またそれをしまい込むために強張る。
「彗?」
「次、りんご飴ね」
こんなの知らないでいい。無駄に揺れ動く感情とか、ねえ。見ないで今日だけだから。
誤魔化すように前に出て、そんな方法しか、思い浮かばないほど私は。思考の余地がなかった。
⸝⋆⸝⋆
⸝⋆⸝⋆
「何でいんの」
店を一通り回って、芽吹が行こうと言った綿飴屋。注文をしようとメニューを見ていた私の耳に、そんな声が聞こえてきた。
「こっちのセリフだ」



