なんか、芽吹で、ちょっとだけ胸が苦しくなった。
「今日なんか違ぇね」
「具体的に」
「緊張した顔してる」
頬に触れそうで触れない指先に言葉が詰まる。見透かされたくない、丁寧なとこ。深いチョコレートの眼が、微笑んだ。
緊張、緊張とか、そんなの別に今さらすぎる。顔に出ていたのならそれが悔しい、の、恥ずかしい。
「見ないで」
視線ごと下を向きそうな私の前髪を指先で分けて、顔を覗き込んでくる芽吹は、笑い声を零して。
「やだ。今は」
なんて呟いて。
行こう、と離れていった指先。前髪を押さえながら彼を追った。鳥居を抜けると人混みは増していて、熱気を感じる。
時間帯にすこしマシになったはずの気温が、限定的に高まったような空間が肌を撫でた。じわりと滲む顬の汗を拭い、彼のあとを歩く。
すれ違う人々のほとんどが、芽吹に目を奪われて振り返るような仕草をしていた。
当の本人はいつもの怠そうな背を伸ばして、颯爽と道を歩き続けている。非日常の景色、色鮮やかな提灯、電飾、すこし薄い煙。芽吹は、不似合い。
「彗、ここ」
不意に振り返った彼はある店の前に足を止めて、指をさした。フルーツジュースを売っている店だった。
「いいね、私はグレープフルーツにしようかな」
「ひとくち頂戴」
「芽吹は?」
「バナナ」
人が並んでいなかったおかげで店の人は私たちに気づいて、何味にするか笑顔で聞いてくる。それぞれに注文をすると、私たちを交互に見た店の人は首を傾げた。
それを不思議に思っていた私と裏腹に、芽吹はどういった出店があるのかを饒舌に教えてくれる。
それを聞き流していると出来上がったジュースが渡されて、お金と交換する。店の人はなぜか私を凝視して。
「可愛いカップルねぇ。今日はデートで来たんです?」
なんて芽吹に笑いかけた。



