だからそういうの、本当は駄目。そういうの以外も本当に駄目。わかっていてその上で過ごしているのに、改めて関係性に疑問符が浮かぶと目を逸らしたくなる。
芽吹はどこまでも許容してる。私もどこまでも許容。共有してるものは多いまま、温度と時間は心地良い。
すこし足を速めて隣に並んだ。
「私の手、ベタベタしてる」
「はじめてしたでしょ体験」
「したいって思わないよ」
私の返事にすこし嫌そうな顔をした彼に首を傾げる。
「あいつと同じこと言うね」
砂原と同じ意見だったことに対してだと気づくと、ちょっと苦笑いした。遠回しに変と言われたことを根に持ってるらしい。
「フツウならそう思うよ」
「じゃ、フツウじゃなくなってよ」
その言葉に、心臓がどきりとする。
さっき炭酸が手に零れてきたような感覚が、今度は頭から降り注いできた気分だった。
動揺は訪れない、平静も訪れない。でもやっぱり私は、私と芽吹以外の世界が回っているように見えるから、そうなのだと思った。
芽吹は、私の、何であってほしいのか、なんて。答えはまだ見つからない。
「そんなのとっくに」
とっくにフツウじゃないから、必要じゃないプロセスに。繋いだ手を軽く引っ張ると、芽吹はすこしだけ笑う。
本当はこんなのすべきじゃない、居るべきじゃない、こんなの全然私じゃない。でも手、離す理由がない。駄々こねてる常識的な部分が胸を叩いた。
芽吹は繋いだ手にすこし力を込めて、長く息を吐き出す。
「負けたくねー」
「え?」
平坦に紡がれた言葉に彼を見るといつものように気だるげな顔をしていた。
「それ、砂原にってこと?」
「そ」
聞き返せば私の方を見て、笑みを浮かべた芽吹の瞳は暗く煌めいて。夕日に影響されたホワイトブロンドがその眼をすこし隠してしまう。
足が止まる。
学校以外で出会う彼の表情をした眼は、眼だけは雄弁に私を見ている。何か鬱陶しい胸のつかえが取れたみたいに思考が巡った。
遠くで聞こえる蝉の声。暑苦しい斜めの陽。冬みたいな感情がまたひんやりと訪れる。
「目、逸らさないで」
私は、無理に背伸びをして。
そう言った芽吹の前髪を無造作にかきあげて、ただ彼の名前を呼んだ。
それだけのことに夏が色濃く影を落とした。



