再び詰め寄ってきた砂原は、なぜか早口でそう言って近づいてくる。
「確かに人にぶつかったけど」
「そうだったんだ。俺だよ、ぶつかったの」
「よく覚えてるね」
「そりゃ勿論。記憶力は良いからね」
結局自慢話をしたかった、のかな。
よくわからないまま笑顔の彼を見ていると、掴まれていた重みが消えた。斜め後ろの芽吹は黙っていて、でもこれはいつもの黙りじゃない。
そんな気はするのに訊こうにもいい言葉が見つからない。
思考を巡らせていた私に何かと話を続けてくる砂原の、笑顔とか。いま至急の事情の手前、本当に聞き流してしまう。わるいけれど。
いい加減な相槌にうんざりしてくれないかな、なんて気を削ぐことを考えていた矢先に。
液体がはじけた音がした。
「冷た、」
そう言ったのは芽吹だった。
「下手すぎ、だよね」
「俺のせいじゃねーよ」
缶からふきだしたらしいコーラが、芽吹の指先から滴り、シャツがすこし染みをつくる。冷静に無表情で滴る液体を眺める顔が、すこし固い気がした。
芽吹のゆっくりと上げられた視線の先にいるはずの砂原に、やっとピンとくる。走ってきたせいで、こんなこと起きた。
「悪い。何も考えてなかった」
「あ、そ」
「明日買い直すから許せよ」
「うん」
意外と律儀な何かがあるらしい。
芽吹はコーラで濡れた手をゆっくり振って、地面に水滴を散らす。染みができるのをぼうっと見ているのに飽きて、スカートのポケットからハンカチを取り出した。
水色のタオル地。黙ったまま差し出すと、芽吹が「いーの?」って言葉を落として。
視線を上げると眼は微笑みを浮かべ、私を見ていた。あのチョコレートの深い色。いつも、やっぱり、この眼は。
手からハンカチが消える。その代わりに、冷たいものがそのまま降り注いできた。
「うん?」
てのひらを見ると、濡れている。



