散々溜められた質問に、内心首を傾げた。
「違います」
どこを見てそう思ったのか私が知りたいくらいだった。
「は? 違う? 何で?」
「違うから違う」
顰め面で顔を覗き込んでくるこの人は失礼という単語を知らないのだと思う。何とも思わないけれど、まじまじと見られて嬉しいわけない。
珍しいものを見るかのように近づいてきて私を凝視したあと、眉間に皺を寄せて、ようやく納得できた様子で姿勢を戻した。
「そっか、なら良いんだ。俺は砂原 裕、よろしく」
「、よろしく」
にこやかな笑顔で自己紹介をされて、とりあえず軽く会釈する。
砂原 裕、って聞いたことが。
そういえば、と今朝の出来事を思い出した。芽吹に喧嘩を売りにきた他のクラスの人だ。
「君は?」
「糸川 彗」
あの時はよく顔が見えなかったからほぼ知らないけれど、爽やかそうな人だと思った。
いい名前だね、と笑顔で言われて言葉が詰まる。そんなことを普通のテンションで言われたことがなく、何だか一歩引いてしまった。
「彗ちゃんって呼んでいい?」
「うん」
「俺のことは裕って呼んでもいいよ」
「遠慮する」
私が引いたぶん詰めてくる砂原に面倒臭さがせり上がって、見返した時。踵で何かを踏みつけた感覚に思わず下を見ると、芽吹の靴が目に入った。
「ごめん、踏んだ」
「いーよ。それより帰ろ」
上から降ってきた言葉に顔を上げようとした私に、芽吹が鞄を引っ張る。変な癖。言葉が少ない代わりにそういうのが多い。
返事として頷くと、芽吹は砂原に律儀に「じゃーね」と投げかけた。黙ったまま砂原の方を見る。おどろいた表情が私に向いていた。
「今日廊下でぶつかったのって彗ちゃん? 準備室とか視聴覚室に行く方向の廊下なんだけど」



