血管交換シヨ?

ツキくんからメッセージアプリで連絡が来たのは
その日の夜だった。

「明日うちに来ない?」

その一文に、
否定の返信をする考えなんて
一ミリも持てなかった。

ツキくんは駅まで迎えに行くよって言ってくれたけれど
道は憶えているから一人で大丈夫って返信をした。

「途中のコンビニで何か買っていくよ。何か欲しい物ある?」ってスズのメッセージには
すぐに「ジャスミンティー」って返事が来た。

記憶の操作だと思った。

人は、人の声を一番最初に忘れてしまうらしい。
どんなに好きな人の声でも。

もしもツキくんと何年も話せなくなって
どれだけ思い出に浸っていても
数年ぶりに聴くツキくんの声には違和感があって、
「あぁ、ツキくんってこんな声だった、気がする」なんて思ってしまうのかな。

そのうち香りも、触れた感触も忘れてしまうのだろう。

だけど物や場所は違う。

唯一持っておけるお揃いの記憶で、
ずっと正しく憶えておけるものだ。

スズがきっと、いつかツキくんと過ごしたあの部屋を思い出す時には
記憶の片隅にはジャスミンティーがある。

ツキくんの口内から流れ込むジャスミンティーの冷たさを忘れてしまっても。