血管交換シヨ?

ベンチに座っているツキくんの膝の上には
一冊の小説が置かれている。

右手が添えられているけれど
風が吹くたびにページの角がパタパタと(めく)れている。

「遠足に小説持ってくるなんて。珍しいね」

「こういう自然が多い場所で読んだら気持ちいいだろうなぁって」

「なに読んでるの?」

「ん」

ツキくんが小説を膝から持ち上げて
表紙を見せてくれた。

書店でよく見るようなブックカバーは外されている。
黄色みがかった″本そのもの″の表紙に、
朱色でタイトルが印字されている。

彼を知らない人を探すほうが奇跡なくらい有名な文豪の、
代表作と言っていいくらいの書籍だった。

購入してからもう何度も繰り返し捲っているのか、
ページはやわらかそうで
角も新品ほどピンピンには見えない。

「好きなの?」

「うん。何が、って訊かれたらうまく言えるか不安だけど。一番好き。なんていうか、」

「うん」

「ずーっと一緒に居る人の安心感、みたいなものってあるじゃん」

「親友とかね?」

スズの脳内には
しろちゃんの顔が浮かんでいた。

スズにとって安心感を与えてくれるのは
いつだってしろちゃんだったから。