「ツキくん」
呼ばれたツキくんがゆっくりと顔を上げた。
ベンチのそばに一本の大きな木が植えられていて
緑色の葉っぱ、葉っぱの重なりが木漏れ日を作っている。
キラキラとした光がツキくんの顔の上で揺れている。
折り紙を折って折って、それから角を切っていく。
もう一度広げたら幾何学的な切り絵ができあがる。
ツキくんの顔の上で揺れる陽は
なんだかそれに似ていた。
ちょっと冷たい風が吹いて
目にかかりそうな、ツキくんの真っ直ぐな前髪を揺らした。
「スズじゃん」
「うん」
「べんとーは?」
「もう食べたよ。ツキくんは?」
「食べた食べた。中原達と」
「クラス違うのにずっと仲良しなんだね」
「ん?んー、そうだな。中学から一緒だから」
「そうなんだ。美桜ちゃんも一緒に食べたの?」
「いや?友達と食べるって言ってたけど」
「そっか。美桜ちゃんも中学から一緒なの?」
「ううん。高校から。一年の時、クラス一緒だったんだよ。中原も」
「ここまで一緒に登ってきた?」
「スズ」
「ん?」
「美桜のことばっかだな」
ツキくんは目を細めて笑った。
呆れているような表情でもない。
あやしている子どもに向けるみたいな目だった。
見透かされているかと思った。
美桜ちゃんのことをいっぱい訊いていないと不安なスズを。
何か一個でも美桜ちゃんのことを否定してほしい、
スズの滑稽な感情を。
でもツキくんはしない。
″美桜ちゃん自身のこと″では、
否定も、肯定も。
まるで″スズには関係ない″って言っているみたいに。
呼ばれたツキくんがゆっくりと顔を上げた。
ベンチのそばに一本の大きな木が植えられていて
緑色の葉っぱ、葉っぱの重なりが木漏れ日を作っている。
キラキラとした光がツキくんの顔の上で揺れている。
折り紙を折って折って、それから角を切っていく。
もう一度広げたら幾何学的な切り絵ができあがる。
ツキくんの顔の上で揺れる陽は
なんだかそれに似ていた。
ちょっと冷たい風が吹いて
目にかかりそうな、ツキくんの真っ直ぐな前髪を揺らした。
「スズじゃん」
「うん」
「べんとーは?」
「もう食べたよ。ツキくんは?」
「食べた食べた。中原達と」
「クラス違うのにずっと仲良しなんだね」
「ん?んー、そうだな。中学から一緒だから」
「そうなんだ。美桜ちゃんも一緒に食べたの?」
「いや?友達と食べるって言ってたけど」
「そっか。美桜ちゃんも中学から一緒なの?」
「ううん。高校から。一年の時、クラス一緒だったんだよ。中原も」
「ここまで一緒に登ってきた?」
「スズ」
「ん?」
「美桜のことばっかだな」
ツキくんは目を細めて笑った。
呆れているような表情でもない。
あやしている子どもに向けるみたいな目だった。
見透かされているかと思った。
美桜ちゃんのことをいっぱい訊いていないと不安なスズを。
何か一個でも美桜ちゃんのことを否定してほしい、
スズの滑稽な感情を。
でもツキくんはしない。
″美桜ちゃん自身のこと″では、
否定も、肯定も。
まるで″スズには関係ない″って言っているみたいに。



