血管交換シヨ?

「俺が…書いた小説で世界が変わるなんて大それたことは思ってない…。でも俺は俺の生きてる範囲の小さな世界を変えたかった。俺自身を変えたかった。何も無くなったこの家で生きていくことへの虚しさも死への切望も、愛されることへの憧憬も…。こんな俺が何かを残せたら誰かの世界だって変えられるかもしれない。生きていくことへの恐ろしさをほんの少しでも軽くしてあげられるかもしれないって…」

「だから小説を書くんでしょ!?傑作を書くんでしょ!凄くなるんだよ…スズの言葉なんてしらけちゃうくらい、本当に凄くなっちゃうんでしょ。だったらさっさと書きなさいよ!これならもう大丈夫だって、本当にもう死んじゃってもいいんだって思えるくらい、凄いやつを!」

「スズには俺が必要なんだろ。俺が居る世界が。傑作が残せたら、いや…小説家の苦しみはきっとどこまでも夢が続いていくことだよ。終わりなんてない。傑作を書いたらまたその光に憧れ続ける。でも、もしも俺がたった一冊。この世に残すことができて俺の夢が成就したら本当に死を選んでも、スズはそれも愛だって言えるの」

「そしたらスズは笑い飛ばしてやる。ツキくんのせいで常識も倫理観もぶっ壊れちゃったからさ。スズはスズらしく、あなたの棺の前で。彼は凄いんだって。凄いから死ねたんだって。ツキくんの傑作だけを抱き締めて、ツキくんが居なくなった世界でも笑い飛ばして生きてやる。だからさっさと書いてよ。ここで、隣でちゃんと見届けるからさ」

スローモーションを見ているみたいに
静かにツキくんの頬を伝った雫が、
膝の上で強く握られた拳に落ちていくのを見た。

声を押し殺して、
だけど漏れる嗚咽ごとスズは抱き締めた。

なんだかツキくんの体がスズよりも小さく感じてしまって
ツキくんは泣いているのに、スズはクスクスと笑ってしまう。

「ダサくてごめん」

そう言ったツキくんに
「ほんとだね」って応えたら、
ツキくんはスズの目をちょっと睨んで、
そっとキスをくれた。

ねぇ、ツキくん。

ちゃんと泣けて、よかったね。