「ねぇ、ツキくん」

「んー?」

「キスしたい」

「さっきした」

「もっとしたいっ!」

「わがまま」

「…………!?」

おかしい。

絶対におかしい。

甘々イチャイチャラブストーリーだと、
「わがまま」なんて呆れた表情で言いながらも
ニッて口角なんて上げちゃって、
色っぽさでも混ぜ込んだみたいな目つきでキスしてくれるもんなんじゃないの!?

「ツキくん」

「なに…」

「やっぱりキスしたい」

ツキくんは短く息を吐いて、
人差し指と親指の先で
ちょんってスズの前髪を摘んだ。

「スズは少し、我慢が足りないね?」

そんな時、
スズはいつもツキくんの目をしっかり見て
わざと頬を膨らませてやるんだ。

感情には“嘘″じゃない駄々を
たっぷりと含ませて。

「なんで好きなのに我慢しなきゃいけないの!」

「思い通りに与えられ過ぎるとつまんないでしょ」

「”与えられ過ぎる“とかじゃないじゃん!好きなら好きって言いたいし、好きだからいっぱい触れていたいもん!ツキくんだってもう分かってくれてるんでしょ?なんで我慢しなきゃいけないの」

「それはそうだけど。その前に俺は俺自身のものだからね?」

「…」

「スズのことは大好きだけど、搾取され過ぎるのはヤダな」

搾取って。

嫌な言い方。

ツキくんの分からず屋…。