神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

―――――…とある昼下がりのことである。

「ふー…。疲れた…」

仕事部屋のデスクチェアにもたれかかり、ぐーっと伸びをする。

今日は昼前からずっと、書類仕事に精を出している。

聖魔騎士団魔導部隊の仕事は、現場での任務が主だが。

こうして、書類仕事も多い。

特に俺は多い。

何故かと言うと、相棒であるベリクリーデのせいである。

あいつは書類仕事が苦手、どころか壊滅的に下手である。

見るに見かねて、いつの間にか、相棒の俺がベリクリーデの分も書類仕事を請け負うことになってしまった。

ズルいだろ。

だけど俺だって、何もしなかった訳じゃない。

人間、何事も最初は素人だ。

そこから訓練を積み、経験を積み、出来ることを増やしていくのだ。

だから俺は、新入社員に仕事を教えるような気持ちで。

いや、違うな。

幼稚園児に国語を教えるような気持ちで、ベリクリーデに報告書の書き方を教えようとした。

ベリクリーデに分かりやすいよう、手引き書まで作ってやったんだぞ。

そうやって、時間をかけて、苦労して、根気強く、熱心に書き方を教え。

「分かったか?」と聞くと、「うん、分かったー」と言うから。

それならと、俺はベリクリーデに、その日の現場任務の報告書制作を任せた。

で、書き上がった報告書を見せてもらうと。

幼稚園児が書いたみたいな丸っこい、そして下手くそな字で、しかも鉛筆じゃなくてクレヨンを使って。

一行だけ書いてあった。

「きょうは、じゅりすといっしょにがんぱりはした。」

以上。

俺は、思わずその場に崩れ落ちた。

全部ひらがなだし。これ全然報告書じゃないし。そもそも誤字ってるし。

それなのに、ベリクリーデはその横で、えへん、とばかりに得意げだし。

もうツッコむにツッコめなくて。

結局、やっぱり報告書は自分で書くことにした。

ベリクリーデに教えるより、自分で書いた方が早いわ。

あいつはもう…うん。俺の理解の範疇を超えた先にいるよ。

…って、ベリクリーデに言おうものなら。

褒められたと勘違いして、やっぱりえへん、とドヤ顔なのだから。

俺が普段、どれほどあいつの世話に手を焼いているか、分かるというものだろう?