シリアル・ホラー

「ぐ…… ぼあ」

 サラリーマンが口から血の塊を吐いた。ゆうじは汚いものでも見るように眉根を寄せて、包丁を抜いて一歩下がった。

「ゆうじ!」

 なんてことをしたんだ! 殺人じゃないか! ゆうじが、友達が殺人犯になってしまった! いや、まだ間に合う。

「きゅ、救急車!」

 僕は電話を借りるために、近くの家に走り出した。

「まこと」
「はっ!?」

 ゆうじのとても落ち着いた声に違和感を覚え、僕は振り返った。

「今晩何時に待ち合わせる?」
「は、はあ? お前なに言ってんだよ! ひ、人を刺しといて!」
「ああこいつ?」

 ゆうじは倒れてぴくぴく痙攣しているサラリーマンの頭をつま先で小突いた。

「ムカつくよね。ちょっとぶつかったくらいで。中学生舐めんなっての」

 そういうと片膝をつき、サラリーマンの後頭部にまた包丁を突き刺した。

 サクッ

 その光景に似合わない軽い音がして、包丁が刺さったところから赤黒い血が湧き出した。

 サクッ サクッ サクッ サクッ サクッ サクッ サクッ

 ゆうじは何度も刺していく。後頭部、首筋、肩、背中、腰、腕また後頭部。
 道路に赤黒い血が広がっていく。

「じゃあ後でな」

 ゆうじは血まみれの包丁をかばんにしまい、何事もなかったかのように歩いて行ってしまった。
 僕は呆然とその場に立ち尽くしているしかなかった。