窓も同様。トイレの中にあった掃除道具を投げつけてみたけど、ヒビ一つ入らない。電話はどこにかけても鄭厘(じょうりん)公司(こんす)にしか繋がらない。唯一繋がったのはネットだ。私はアカウントのある「みんなのグラファー」こと「みんグラ」に、今の状況を書き込んで助けを求めた。

『大手町の投胎(とうたい)ビルの6Fに閉じ込められています。だれかたすけて』
『なにこれウケる』
『マジ? 犯罪?』
『なんかもらえるの?』
『これなんのイベント?』
『一応行ってみたけど、誰もいなかったよ。普通に会社があるテナントビルだったし』
『エレベータが6Fから他の階に動かないんです』
『え? このビル5Fまでしかないけど』

 そんなやりとりのあと、充電が切れた。



 一か月が経った。私はまだ出られていない。非常ボタンを押しても、なんの反応もない。エレベータの天井の非常出口は、びくともしない。大声で叫んでみたけど、なんの反応もない。



 一年が経った。ここには夜はない。私は薄暗いホールに横たわったままだ。動く気力もない。



 もう何年経ったのかわからない。エレベータは常に6Fに辿り着く。エレベータのない縦穴を下がればと思ったけど、エレベータの箱は常に6Fにある。隙間を覗いてみても暗闇だけだ。



 私は歳を取らない。死ぬこともない。



 私は永遠。



 ワタシは……



―― 了 ――