クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~

「マリーザは療養するために、結局辞めてしまったと聞きましたけど……」
「宴の日、退職を伝えるために王宮に来ていた。お世話になったからと、忙しそうにしている調理場を少し手伝って帰ったそうだ」

 その日は何人もの使用人がバタバタ動いて仕事をしていたため、レーナはマリーザの姿に気がついていなかった。
 たしかに彼女が器やグラスに触れていても誰も変だと思わない。

「ですが……なぜ毒を」
「カネをもらって指示されたらしい。取り調べた結果、口を割った」

 実行犯はマリーザだが、さらに裏で誰かが糸を引いていたと知り、レーナは自然と苦悶に満ちた顔になった。
 彼女はそのせいで体調を崩していたのではないだろうか。本当はやりたくなくて、悩んでいたのかもしれない。

「俺のグラスに毒を仕込ませたのは、王弟のフョードルだ」
「……フョードル殿下はオスカー殿下の叔父に当たるお方ではありませんか」
「そうだな。血の繋がった叔父だ。だが、自分が王座に就くためには俺が邪魔だったらしい」

 フョードルにそんな野望があったことに驚いたレーナは、両手で口を覆いながらブルブルと震えた。
 まさか自分の甥を殺めようとするなんて、と。

「マリーザは王族の殺人未遂、フョードルは殺人教唆の罪で、王様が裁きを下される」
「もう心配いらないのですか?」
「ああ」

 オスカーがゆるい笑みを浮かべるのを見て、レーナはホッと胸をなでおろした。
 これで再び、王宮内に平和が戻ってくる。