クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~

 煌太郎の父は品がよく、どんなときでもおおらかにかまえている人だった。
 息子が気に入った娘なら、と桜和との縁談もすんなりと認め、来春の婚礼を楽しみにしてくれていた。
 そんな温厚な人物でも、自分の家が傾くかもしれないような事柄には巻き込まれたくないと判断したらしい。

 あちらは公爵だが、菊地家とて伯爵の身分。
 借金を肩代わりしてほしいだなどと頼みに行くのは、プライドの高い江蔵にはつらかっただろう。
 苦悶の表情になる父を、桜和は涙を浮かべながら思いやった。

「婚約は……煌太郎様との結婚はどうなるんですか」
「破談に決まっているだろう」

 父の言葉で、桜和は後頭部をなにかで打たれたような衝撃を受けた。
 十日前に野宮邸を訪れたときは、あんなに幸せだったのに……。

「早朝に家を出るって、どこへ行くの? 鎌倉の別荘?」
「別荘はとうの昔に抵当に入っていて、じきに競売にかけられる。……この家もだ」
「煌太郎様に一目会ってから、」
「ならん。桜和、許せ」

 これは昨日今日起こった出来事ではない、と桜和は唐突に理解した。
 心配をかけないため、江蔵は経営不振のことを家族にずっと黙っていたのだ。
 話を聞きながら震えている母にもつい先ほど伝えたのだろう。