クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~

「夜更けにどうされたのですか?」

 桜和が呑気な声で尋ねたが、江蔵は渋い顔をしたまましばし考え込んでいた。
 隣にいる桜和の母は悲愴な顔つきになっている。

 ふたりの表情を見て、桜和は昨夜の夢のことが頭に浮かんだ。
 今からなにか起こる。夢のとおりになってしまう。そう考えたら一瞬で恐怖が押し寄せた。

「それぞれ荷物をまとめなさい。早朝にはここを出る」

 江蔵は静かな口調で全員にそう告げた。
 使用人たちは顔を見合わせて動揺している。

「皆には今まで世話になった。これは少ないが足代にでもしてくれ」

 江蔵が使用人たちひとりひとりに茶封筒を渡していく。
 みんなわけがわからずそれを受け取り、手にしたまま呆然としていた。

「お父様、いったいどういうことですか?」

 桜和があらためて問うと、江蔵はつらそうに眉間にシワを寄せた。

「どうもこうもない。この家は今日で終わりだ。皆、実家にでも帰りなさい」

 外に働きに出された使用人は、突然帰れと言われても帰る場所などない。
 それは江蔵も重々承知しているが、そうするしかなくなったのだ。